COPD※1を発症するとQOL(Quality of Life:生活の質)は数十年間にわたり悪化するが、禁煙をすれば悪化速度を半分程度に遅らせることが可能(国立大学法人 千葉大学大学院)

発信日:2020/09/08

 千葉大学大学院 薬学研究院および慶応大学医学部の研究グループの研究結果。科学誌Journal of Clinical Medicineに2020年8月19日にオンライン公開された。
 COPD患者を対象とした国際共同治験SUMMIT試験※2に参加し、プラセボ(偽薬)の投与を受けた1,025名のデータを解析。評価の指標にはQOLを評価するSGRQ及びCATスコア(スコアが高いほど悪化を意味する)、肺機能を評価する%FEV1及び%FVC(値が低いほど低下を意味する)を用いて、COPD発症から30年程度の変化をSReFT解析※3を行い推定。

 成果 1:QOLの悪化を示すスコアは発症後数十年間も増加する
 QOLを評価するSGRQ及びCATスコアは、病態進行に伴い増加。(上図(a)(b))肺機能検査の%FEV1については罹患後すぐに減少傾向が認められたが、疾患時間(Disease time)が10年以上になると鈍化。%FVCは大きな変化は認められなかった。(上図(c)(d))
 この結果は、COPD発症により肺機能は比較的早期に下がり止まる可能性がある。また下がり止まった患者でも、生涯にわたりQOLの悪化が続くという結果を明確に示しており、COPDの病態進行の評価にはQOLを積極的に確認することが重要だと考えられる。

 成果 2:禁煙によりQOL悪化の進行速度を約半分程度に遅らせることが可能
 患者を現喫煙者と前喫煙者に分けて長期病態進行に違いが認められるかを調べた結果、禁煙をすることでQOL悪化の進行速度を約半分程度に遅くさせることが可能であると考えられる。(上図(a)(b))
 この結果は、禁煙はCOPDを発症してからでも将来的に大きなQOLの差になることを示している。

 報告者は、「既に禁煙はCOPD予防・治療において極めて重要であることは知られている。しかし、それでも禁煙を希望しない人がいる。本研究で明らかになったように禁煙はCOPDを発症してからでも将来的に大きなQOLの差になる。禁煙をより強く推奨していくことが重要」とまとめている。

※1 COPD(chronic obstructive pulmonary disease:慢性閉塞性肺疾患)
 タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患であり、喫煙習慣を背景に中高年に発症する生活習慣病。喫煙者の15~20%がCOPDを発症。40歳以上の人口の8.6%、約530万人の患者が存在すると推定されている。
※2 SReFT解析
 数十年にわたる経時推移を多数の短期間データから推定する新しい解析法。樋坂教授が東京大学在籍時に開発。
※3 SUMMIT試験
 2011年~2015年にかけて実施された、COPD患者を対象とした国際共同治験。臨床試験情報公開制度(リポジトリ)であるClinicalStudyDataRequest.comを通じて、一定の手続きに従いデータが入手可能。

千葉大学大学院薬学研究院臨床薬理学研究室プレスリリース(PDFファイル)
 http://www.chiba-u.ac.jp/general/publicity/press/files/2020/20200827COPDSReFT.pdf

 

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